01月 12th, 2008
「母べえ」主演 志田未来-娘の初子
「母べえ」志田未来主演娘の初子
●戦争の時代、見つめてほしい
日米開戦期の東京を主な舞台に、過酷な時代を懸命に生きた家族の姿を描く映画「母(かあ)べえ」(山田洋次監督)が完成、26日に全国公開される。主役の「母べえ」を演じた吉永小百合に見どころや作品への思いを聞いた。 (塩津健司)
-冒頭、夫が治安維持法違反容疑で連行された後、無言でぞうきんをかけるシーンが強烈でした。
「刑事に土足で踏みにじられた畳をしっかりと拭(ふ)くことで、夫のプライドを守り子どもと一緒に一家を守っていくという決意を表しました。最初、シナリオになかった場面ですが、監督が、こういうシーンが必要だと言って入れられました」
▼「体全体で演技」
-ようやく認められた夫との面会の場面で、切ない心情が強烈に伝わります。
「夫の背中の湿(しっ)疹(しん)を目にしたり(二女の)照べえをしからないといけない、つらいシーン。どこまで演技でおののいているのか分からないぐらいで、パニックになりそうだった。自分があの立場にいないありがたさを痛感しました」
-子役2人も印象的です。
「役柄通り、上の子は内気だけどしっかり者。下の子は本当に奔放でおちゃめで、どんどん心の中に入って来るような子。とにかく一緒の時間をいっぱい持つため、当時の遊びをしたほうがいいと思い、紙風船をやったり、シャボン玉をやったり、しり取りなんかもずいぶんやりました」
-声高に主張する映画ではありません。演じ方の工夫は。
「監督から『顔で芝居せず、体全体で表現してほしい』と言われました。監督の映画づくりは独特。テストを繰り返す間に、せりふがどんどん変わっていく。物語が少しずつ膨らみ、撮り終えるとシナリオもシーンも完成するという形で、とてもおもしろい現場でした」
▼“山田学校”再入学
-現場で対応するのは難しそうです。
「それは(山田監督の)『男はつらいよ』に出たときから変わらない。常に一番いい表現やより的確な形を考えていらっしゃる。考えがまとまるまで、役者としてはいろいろな形で演じてみて、その中で監督が選ぶ感じ。決められたせりふを決められたようにしゃべるというのでなく、せりふが生きているということが実感できました」
-水泳シーンや、亡くなる間際の特殊メークなど、新たな挑戦も見られました。
「波打ち際を走って海に飛び込むシーンなので、衣装がぬれてしまうとやり直しは難しい。緊張しましたが、ロケ地の奄美の海がきれいで、爽(そう)快(かい)な気分でできた。特殊メークは初めてで大変だったが、自分と違うものができあがっていくおもしろさがありました。自分の顔でなく、不思議なものを見るような気持ち」
-2007年12月出版の自著「夢の続き」で、この映画に出たことで「自分についた垢(あか)が少し落とせた」と語っていますね。
「この年齢になると、監督さんから演出などについてあまり言われなくなり、自分の引き出しの範囲でできてしまうというかやってしまう。それでは、先に進もうとしたときに、プラスにならない。今回“山田学校”に再入学し、もっと違う言い方があるんじゃないか、もっと違う表現があるんじゃないかと現場で考え、既成概念や、型にはまった芝居のやり方を捨て、監督のイズム(主義)の中でやれたのは、とても勉強になったし、おもしろかった。自分のちょっと汚れてきたような部分を洗って、新たな出発ができるかしらという気がしています」
▼若者へメッセージ
-戦争中の日常と国家の姿をありのまま記録した映画でした。若い観客へのメッセージをお願いします。
「太平洋戦争で日本が米国と戦ったことや、広島や長崎への原爆投下を知らない若者がいるのは悲しい。あのころの日本に目を向け、戦争に負けて新しい日本ができたということを知ってほしい。またこれから日本がどういう国になっていくのか不透明な時代。“故(ふる)きを温(たず)ねて新しきを知る”ためにも、あの時代を見つめてほしいという思いがあります」
▼「母べえ」のあらすじ
1940(昭和15)年の東京。野上家の父・滋(坂東三津五郎)と母・佳代(吉永小百合)、娘の初子(志田未来)と照美(佐藤未来)は、互いを「父べえ」「母べえ」「初べえ」「照べえ」と呼び合う。仲むつまじい一家の風景は、父が治安維持法違反で検挙された朝から一変した。
不安を募らせる母と娘たちを、周囲の人間が温かく支える。父の教え子の山崎(浅野忠信)は、一家から「山ちゃん」と呼ばれる大切な存在。父の妹で美しく活発な久子(檀れい)は、娘2人のお姉さん役。変わり者の仙吉おじさん(笑福亭鶴瓶)は、いくつもの騒動を巻き起こす。
41年、日本は太平洋戦争に突入、庶民の暮らしにも戦争の影が忍び寄る。そんなある日、野上家にある便りが届く…。
原作は黒澤明監督のスクリプター(記録係)として知られる野上照代さんが、少女時代を自伝的に描いた「父へのレクイエム」。映画化に合わせ「母べえ」と改題、中央公論新社から出版された。
▽「母べえ」公式サイト
http://www.kaabee.jp/
=2008/01/04付 西日本新聞夕刊=
2008年01月04日17時26分
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