漫画
 山田洋次監督と吉永小百合さんが「男はつらいよ 寅次郎恋やつれ」以来34年ぶりに組んだことで話題を呼んでいる本作。家族を描いたら天下一品の山田監督。松竹の実力を見せつける作品です。「いい映画だよ~」と老若男女にすすめられます。

 ところで、昨年12月の製作発表の会場には「ほとんど会見に行かないんだけど」と言いながら、体にムチ打ってやってきた年配の映画関係者の姿が目立ち、そんなサユリストからは「檀れいも、いいね」という声が……。そう、おじさまたちの心をワシッとつかんでいる檀れいさんは、山田監督の「武士の一分」から続けて出演。吉永さんの夫役・坂東三津五郎さんも同じくです。「武士~」とは全く異なる役柄で、幅広い演技力を見せてくれるという見どころもアリなのです。 

 舞台は昭和15年、激動の昭和の時代。治安維持法によって夫を逮捕された母べえ(吉永さん)が、幼い子どもを守りながら懸命に生きる姿を描いています。昭和30年代のファンタジックな部分のみ強調して描いた作品を見て「昭和っていいよね」とのんきに浮かれている人たちに、ズシリと重い球を投げてきます。原作は、スクリプター(脚本家)として「生きる」以降の黒澤明監督作品すべてに参加してきた野上照代さんの自伝的小説。つまり、母べえは野上さんのお母さんをモデルにしているのです。

映画の1場面 母べえは大らかで働き者。そして、強くて優しい。電化製品のない時代、家事労働がどんなに大変だったことか。しかも母べえは、小学校の代用教員として働いて家計も支えているのです。

 「そんな母親像は理想じゃないか」と言ってしまえばそれでおしまいだけど、母べえの母親として仕草や会話は子育ての参考になることばかり。子どもが悪いことをしたら思いっきりしかるが、甘えてきたら思いっきり甘えさせる。子どもが不安なときはギュッと抱きしめる。子どもを話の外に置かず、質問してきたら説明する。子どもの気持ちに気づかなかったときは「ごめんね」とあやまる。

 つらい状況にいながら、なぜ母べえは子どもにあたり散らしたり、夫に「転向しちゃえばいいのに」と思ったりしないのだろう(はたまた、そんな吉永さんの姿を見たくないからか?)。

 現代と何が違うのだろうか? そんな思いで見ていると、母べえと子どもたちの周囲には、いつも誰かしらがいたことに目がいきます。浅野忠信さんが演じる夫の教え子、檀れいさんが演じる広島からやって来たおばさん、鶴瓶さん演じるおじさんら脇キャラが一家をふんわりと包み込む。ときどきやって来る町内会長さんも親切です。この映画からにじみ出る母べえの優しさは、周囲の人たちの優しさがあってこそ。拘置所でやつれていく父べえ、父べえを待ち続ける母べえには、必ず誰かが寄り添っています。

映画の1場面 山田監督はさすがのさじ加減で、息が詰まらないようなテンポ感を与えています。2人のかわいい子役もアクセントに。こだわりぬいた手編みのセーターや手作りの衣装、お釜が置いてある寒そうな台所や円卓(ちゃぶ台)のある茶の間、当時の家並みもていねいに再現しています。「普通のお茶の間の向こう側に戦争が見えているという風にしたかった」と語る山田監督。ねらい通りですね。

 やがて映画は、太平洋戦争に突入し、いよいよ暗い時代に入っていく。ささやかな日常に気持ち良くなっていたら……! ガーンとしますなあ。後半の展開に、山田監督の強いメッセージを感じます。(文・イラスト、キョーコ)

<作品データ>

「母べえ」

1月26日から東京・松竹系にて全国公開中。

監督:山田洋次

映画の1場面出演:吉永小百合、浅野忠信、檀れい、志田未来、佐藤未来、笹野高史、でんでん、戸田恵子、大滝秀治、笑福亭鶴瓶、坂東三津五郎ほか

2007年/日本/132分/配給:松竹

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